試行咲互の日々

2016年10月24日up

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我が子がふたりになった日

息子には陣痛が来るその瞬間まで、愛していることを伝えつづけたい。その想いは、ほぼ叶えることができたと思う。

はちきれそうなおなかで息子を抱いて子育て支援センターに遊びに行き、「今日ですか?!」と保育士さんを焦らせた出産予定日。息子は帰ってからも「ひろば、いったね!」とニコニコ。母子でのんびり過ごした最後の思い出だ。その夜、息子と夫が寝静まってから、懐かしい痛みがやってきたのだった。
午前0時すぎ、車で助産院へ向かう道中。すっかり目を覚まして興奮気味の息子は、唸る私の真似をして「ううー!」「あー!」と声を重ねる。到着してお産態勢がととのってからも無邪気に話しかけてきたり、私の身体に車のおもちゃを走らせたりして場を和ませてくれた。
そんな1歳児も、初めて見る母の姿にただならぬものを感じていたはずで。もしかしたら、あの無邪気さは一種の防衛本能だったのかもしれない。あえていつも通りに振る舞うことで、未知なるものへの恐怖から少しは距離を置けていたんじゃないだろうか。
そして息子なりの、母に対する精一杯の励ましの形でもあったのかもしれない。そう思うと今更ながら愛おしくて、できることならもう一度だけ、まだ小さかった健気な息子を抱きしめてやりたくなる。
……そう、あの夜を境にお兄ちゃんになった息子はもう、とてもとても大きく感じるようになってしまったから。

陣痛の合間、私は息子にできる限り返事をしつづけた。「うん、そうだね。」「パトカーだね。」「ほんとだ、トンネルだねえ。」
余裕があれば笑いかけ、「ありがとうね。」と言い、頭を撫でた。私もなんとかして息子を励ましたかった。どんな時もあなたが大切だよ、という気持ちを、ぎりぎりまで伝えたかったのだ。

いよいよ痛みが強まりお産はクライマックス。さすがに相手ができなくなり、義母が到着したタイミングで息子には部屋を出てもらうことにした。
そこからは集中することができた。雄叫びをあげ、ベテラン助産師さんの誘導に合わせて思いっきりいきんで。あまりの痛みにめげそうになりつつ、励まされ、もう逃げられない、自分しか産めない!と奮い立たせてまた立ち向かい、力いっぱいいきんで!
30分後に誕生した、ふにゃふにゃ、ほっかほかの赤ちゃんは、息子の新生児時代ととてもよく似た男の子。ああ、なんてかわいいのだろう!よかった、無事に産めたんだ!達成感と安堵で胸がいっぱいだった。
そんな中、息子が義母とともに部屋に戻ってきた。ついに叶った兄と弟の対面。私の胸にさっきまでいなかった小さな人が抱かれているのを見て、息子は相当驚いた様子。私はやさしく満ち足りた気分で「これで私は、ふたりの子の母になったんだなあ」と感慨にふけっていた。

確かに、我が子はふたりになった。
けれども、1対1だった親子関係が1対2になるということが「想像をはるかに超える大変化である」と気づくのに、そう時間はかからなかった。その気づきにはちょっとしたものから大きなものまで、いつも何らかの痛みが伴っていた。産後の心は揺れ動く。
私が本当に無理なく自然体で「ふたりのお母さん」でいられるようになるのは、いつだろうか。それは、こんなふうに考えることもしなくなった時なのかもしれない。
(つづく)

著者プロフィール

藤樫怜子

藤樫 怜子

麻生区で年2回開催のVege&Fork Marketスタッフ。福祉施設職員、幼稚園教諭を経て、植物性スイーツのパティスリーで製造販売、教室運営に携わる。その後『かぼちゃのおうち』の屋号でオーダーメイドのアニバーサリーケーキ受注を開始。独自の感性で世界にひとつの「想い」をデザインする楽しさに熱中する。また、野菜料理カフェでの接客を通して身体と心と食のつながりを学ぶ。 3ヶ月間カリフォルニアの日本語幼稚園で保育補助をする機会に恵まれ、保育の楽しさを再確認して帰国。スイーツの世界から完全に退く。1年後に長男、2年後に次男を出産。 複雑な感情に揺れながら子どもと向き合う日々。母としてたくましく愛情深く育っていく(であろう)過程を綴ります。 子も親もお互いに、きれいな花を咲かせよう。
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