試行咲互の日々

2016年12月28日up

  1. ホーム
  2. 試行咲互の日々
  3. >
  4. やさしくありたい
試行咲互の日々 試行咲互の日々

やさしくありたい

振り返るとこの3ヶ月は、絡まった糸が少しずつほぐれ、かと思えばまた別のところで絡まり、の繰り返しだった。 次男の誕生直後、長男はどこか緊張していて遠慮がちで、あんなに「ママ、ママ」とはりついていたのに、呼んでも「いいの」と言ってなかなか来なかった。でも本当はわたしの胸にとびこみたかったはず。そんな2歳児の複雑な想いを100パーセント受け止めていたのは、育休をとった夫だった。 今回は、役割分担を明確にした。私は新生児、夫は長男の相手に徹するというふうに。 自宅出産で、産後もかいがいしく母子の世話をした前回とは違い、赤ん坊との接点が極端に少なかった夫はちょっぴり困惑気味で「家族が増えた実感がわかない」と漏らしてはいたけれど。その埋め合わせは、今後いくらでもできるのだ。それよりも、今この瞬間、心のよりどころを求めていた長男を優先してもらうことにした。

 

衣食住すべて、特に毎日のお風呂を共にすることで、ふたりの信頼関係がはぐくまれていく様子は本当にすがすがしいものだった。存分に遊びおしゃべりを聴いてもらい、満たされている息子を見ると私もうれしかったし、安心して次男を抱き続けることができた。 ただ、この役割分担が定着すればするほど、よぎるようになった不安がある。それは必ずやってくる夫の育休明けだ。息子と私、どちらにとっても心のよりどころだった夫がいなくなる。ほとんど赤ん坊だけみていればよかったのに、いきなり二人をみながら家事をする……?一体どうしたら良いのだろう。想像がつかない。怖い。 そんな心持ちのまま迎えたその日は、夫の「いってくるね」に長男が激しく泣いて抵抗することから始まった。かと思えばこちらには不自然な作り笑いをしてくることに、地味にショックを受けた。が、きっとただの鏡で、私が必死で作り笑いをしていたのだろう。夕方に向かうと私は軽いパニックに陥り、苛々して長男にあたり、心身ともにズタボロになった。何の修行か、と思った。 翌日も、まだ暗い時間に夫は身支度をしている。ああ、行ってしまうんだ。どうしよう。授乳を終えて茫然とベッドに腰掛けていたところへ「いってくるね」と腰をかがめて来てくれた夫に、思わずしがみついた。子どもたちの寝息に、夫のささやき声が重なった。

 

「いちにち れいこさんが やさしくあれますように」

 

その瞬間、込み上がってくるものを抑えるまもなく、しゃくりあげて泣いた。

 

やさしく。 やさしく……。

 

そうあれない自分が苦しい。 大変さはわかるけれど仕事に行かねばならない夫の、せめてもの祈り、それが「妻が今日一日やさしくあれること」だと思うと、切なくてたまらなかった。

あれから1ヶ月半。 号泣する次男に「ごめんねー、待っててねー」と言いながら、母を独り占めしたい長男を膝にのせて絵本を読みつつ、こっそり次男の胸や頬に手をすべらせるのにも、 授乳しながら食事をしたり片手でたどたどしくパソコンのメール返信をしたりするのにも、 ふたりが同時に泣き叫んでどうしようもなく7キロと13キロを両腕で抱きながらあやすのにも、だいぶ慣れてきた。 家事と、息子たちそれぞれの欲求と、自分の欲求とのバランスの取り方はいまだ模索中だ。それでも、少しはたくましくなったと思う。

授乳中、離れたところで長男がひとり遊びをしながら「トトとママは、なかよし〜」と口ずさむのが聞こえた。少しの照れくささと誇りを、ぎゅっと抱きしめた。

(つづく)

著者プロフィール

藤樫怜子

藤樫 怜子

麻生区で年2回開催のVege&Fork Marketスタッフ。福祉施設職員、幼稚園教諭を経て、植物性スイーツのパティスリーで製造販売、教室運営に携わる。その後『かぼちゃのおうち』の屋号でオーダーメイドのアニバーサリーケーキ受注を開始。独自の感性で世界にひとつの「想い」をデザインする楽しさに熱中する。また、野菜料理カフェでの接客を通して身体と心と食のつながりを学ぶ。 3ヶ月間カリフォルニアの日本語幼稚園で保育補助をする機会に恵まれ、保育の楽しさを再確認して帰国。スイーツの世界から完全に退く。1年後に長男、2年後に次男を出産。 複雑な感情に揺れながら子どもと向き合う日々。母としてたくましく愛情深く育っていく(であろう)過程を綴ります。 子も親もお互いに、きれいな花を咲かせよう。
contact facebook イベント募集中