試行咲互の日々

2017年02月1日up

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「じぶんでできる」を見つめる時

2歳の長男の手を拭く。暮らしの中で欠かさずしている、何ともないようなこと。それをしながら、毎回のように思い出すことがある。
子どもが成長して、自分で手を洗ったり拭いたりすることができるようになっても、拭くところだけは、あえてやってあげるという話。ずいぶん前に読んだ幼児教育についての本に記されていた。

やわらかいタオルを両手に広げて待つ。濡れたちいさな手を迎えたら、力を加減しながらそっと包んで水気を拭きとってやる。それだけのことなのに、0歳と2歳を相手にしながら家事に追われ荒んでいる心が、すーっと落ち着くのを感じる。かわいいなあ、愛おしいな。いつまでこうやって、拭いてあげられるだろう。食事中は力任せにゴシゴシすることも多い分、なんというか、時が止まるような感覚。私はこの子にとって、世界でたったひとりのお母さん。

考えてみたら、自分の手を差し出して拭いてもらうなんて、私を100パーセント信頼してくれていないとできないことだ。実はそのタオルは、触ったら粉々になって消えてしまうかもしれない!出したら最後、きつく挟まれて離してもらえないかもしれない!……なんてことは想像もしないだろうけれど、「ママはぼくの手を拭いてくれる」と信じてくれているんだと思うと、それに応えたくなる。だって、その大前提があるって本当はすごいことなのだ。

「自分でできる」って、素晴らしい。子どもの自信につながるし、生活習慣の自立が早ければ、世話をする親も格段に楽になるはず。
息子も最近「じぶんで!」と言うことが増えてきた。
実際、いろいろなことができるようになった。
自分で靴を履くことも脱ぐことも、揃えることもできる。瓶の蓋を開けられるし、家族のお箸を間違いなく並べられる。熱い汁物のお椀を注意深く持って、ふうふうしながら飲むこともできるし、図書館ではささやき声になれる。エスカレーターの乗降も巧みだし、弟が泣きやまないとき「だいじょうぶだよ」となだめてくれることだってある。できる、見事にできる!できるのオンパレードだ。

そんな子どもが「やって!」と言ってきた時、大人はつい言いたくなる。「自分でできるでしょう」と。
私は少し言葉を換えて「ママは、◯◯(息子)がこれをできるの、知ってるよ。」「◯◯ならできるよ。」「どうやるの?みせて?」などと言って促すことが多い。できるのは本当のことだし、本人も自分でできると結局はうれしいし、誇らしげだったりするものだ。だから、そんなやりとりは大切にしたいと思っている。

でも、できるのを知っているからこそ、喜んでやってあげることがあってもいい。それは逆に、私が息子を100パーセント信じていないとできないことなのだ。せっかくできるのに、やってあげたら図に乗って、やらなくなるんじゃないか。……そんなことは絶対にないと、わたしは信じている。それは先日、靴を脱ぐ場面で確信した。

おっぱいがほしくて号泣がとまらない次男と大荷物を抱えて帰宅し、リビングのある二階に上がろうとしていると、長男が「ぬげない!ママがやって!」と大騒ぎ。ああもう、勘弁してよ……と思いながら、泣き叫ぶ次男を降ろして待たせ、仕方なく玄関に戻ると、右足は脱いであって、左だけ残してあるという状態。嫌味を言いたくなりそうな波を越えてひと呼吸すると、甘えたかったんだなと、ただシンプルにそう思えた私は朗らかに言った。
「あら、こっちは自分で脱げたんだねえ!ステキ!じゃあ、こっちはママがお手伝いするね。」
息子は「ママがおてつだい、してくれる?」と確認。
「うん、してあげる!」と笑顔で返したその瞬間、彼の表情がふわりとゆるんだのがわかった。脱がせ終えると、うれしくってたまらないという感じで「ありがとう!」と言って、意気揚々と階段を上っていったのだった。

自分で脱げるはずの靴を脱がせてやる。あのひと手間がどんなにたいせつなことだったか、時がたつほどに感じる。私自身もすぐまた忘れてしまうかもしれないけれど、折に触れて思い出せたらいいなと思う。きっと、人が支えあって生きていくことの原点だから。

今日もちいさな手を拭こう。

(つづく)

著者プロフィール

藤樫怜子

藤樫 怜子

麻生区で年2回開催のVege&Fork Marketスタッフ。福祉施設職員、幼稚園教諭を経て、植物性スイーツのパティスリーで製造販売、教室運営に携わる。その後『かぼちゃのおうち』の屋号でオーダーメイドのアニバーサリーケーキ受注を開始。独自の感性で世界にひとつの「想い」をデザインする楽しさに熱中する。また、野菜料理カフェでの接客を通して身体と心と食のつながりを学ぶ。 3ヶ月間カリフォルニアの日本語幼稚園で保育補助をする機会に恵まれ、保育の楽しさを再確認して帰国。スイーツの世界から完全に退く。1年後に長男、2年後に次男を出産。 複雑な感情に揺れながら子どもと向き合う日々。母としてたくましく愛情深く育っていく(であろう)過程を綴ります。 子も親もお互いに、きれいな花を咲かせよう。
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